ご挨拶

このたび、財団法人日本伝統文化振興財団が、10年ぶりに「萱野茂のアイヌ神話集成」を復刻すると聞いてとても喜んでおります。

ここに収められたアイヌの古老たちの語りは、40年以上に亘って夫・茂が精魂を傾けて記録し、後世に伝えたいと願い続けてきた大切なものばかりです。あちこちのアイヌのおじいさんおばあさんの家を訪ねては、本当に長い間苦労しながら録り貯め、二風谷アイヌ資料館の金庫の中に大事にしまってあった音が10年前に全集となった時に、心の底から喜んでいた夫の姿が目の前に甦ります。その夫の労作が、今また世の中に出る機会を得たことは、今度は私が本当に嬉しくてたまりません。

夫・茂は「言葉には足がある」とよく申しておりました。ある時一人の姪っ子にアイヌ語の早口言葉を教えてやると、次の日にはすっかり早口言葉を覚えた姪っ子が、次々に友達を連れて来て、「教えてくれ」と言ってきたことがありました。茂はこのエピソードが大好きで、「一人に伝えると、どんどん広がる、言葉とはそういうもんだ。使ってこそ言葉だ」とよく言っておりました。

ですから、これから大人になり未来を担っていく子供たちが、かつて自由にアイヌ語で会話していた古老たちの活き活きとしたアイヌ語を聞き、アイヌ文化に触れて、いろいろなことを考えたり感じたりしてくれたら、さぞかし夫も喜ぶだろうと思いました。

今回の復刻にあたって、高価な全集にもかかわらず100セットを学校に寄贈するという英断をして下さった日本伝統文化振興財団には、心から感謝をしています。

平成20年7月20日

萱野れい子